
2022年7月現在、景気後退局面(リセッション)の兆候が見られています。

アメリカで大規模な金融緩和が終わり、急激な金融引き締めが始まっていますしね。

コロナショック時に従来に無い規模の金融緩和をしたこと、ウイズコロナ時代になりモノが足りなくなりサプライチェーン混乱長期化、ロシアによるウクライナ侵攻などが要因でインフレが加速しています。
景気を落とさずにインフレ退治できるかが焦点となります。

今回の投稿では、アメリカを中心に
①リセッションとは?
過去リセッション時S&P500分析
②リセッションの兆候
③リセッション時に強いセクター探索
④2022年7月時点の状況
⑤リセッションに強いセクターETF上位銘柄
の順で解説しています。
リセッションとは?
定義
景気サイクルは、拡大期と後退期を交互に繰り返します。
景気の山から谷までの間をリセッションといいます。
基本的には、GDP(国内総生産)が二四半期連続マイナスになるとテクニカルリセッションと言います。
アメリカでは、全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)がリセッション判定を実施します。
アメリカの過去リセッション
2020年のコロナショックを除くと、第二次世界大戦後10回リセッション局面がありました。
トリガーは、戦争、インフレ、金融危機など様々です。
過去10回の平均期間は11.1か月と約1年に亘ります。
リセッション時のS&P500
リセッション時のS&P500について調査しました。
リセッション期間 | か月 | 株価ピーク | 最大値 | 株価ボトム | 最小値 | |
1953年7月 | 1954年5月 | 10 | 1953年1月 | 26.66 | 1953年9月 | 22.71 |
1957年8月 | 1958年4月 | 8 | 1956年8月 | 49.64 | 1957年12月 | 39.38 |
1960年4月 | 1961年2月 | 10 | 1959年8月 | 60.71 | 1960年10月 | 52.20 |
1969年12月 | 1970年11月 | 11 | 1968年12月 | 109.37 | 1970年7月 | 70.69 |
1973年11月 | 1975年3月 | 16 | 1973年1月 | 121.74 | 1974年10月 | 60.96 |
1980年1月 | 1980年7月 | 6 | 1980年2月 | 120.22 | 1980年4月 | 98.95 |
1981年7月 | 1982年12月 | 17 | 1980年11月 | 141.96 | 1982年8月 | 102.20 |
1990年7月 | 1991年3月 | 8 | 1990年6月 | 368.78 | 1990年10月 | 294.51 |
2001年3月 | 2001年11月 | 8 | 2000年3月 | 1552.87 | 2002年10月 | 788.90 |
2007年12月 | 2009年6月 | 18 | 2007年10月 | 1576.09 | 2009年3月 | 666.79 |
株価ピークとリセッション開始タイミングのズレ
平均で7か月前という結果が確認されました。
株価ピークとボトムを付けるまでの期間
株価ピークとボトムの下落率
近年は下落幅が大きくなっていることが分かります。
株価ピークを上回るまでの回復に要する期間
山高ければ谷深し。となっています。
ばらつきが大きい為、平均は意味を成しませんが計算すると、23か月となっています。
最大で69か月と約6年も回復できていませんでした。
日本はバブル崩壊から30年以上も回復できていませんが・・・
1953年時
1957年時
1960年時
1969年時
1973年時
1980年時
1981年時
1990年時
2001年時
2007年時
リセッション兆候
GDP成長率(四半期)
4-6月もマイナスになれば、テクニカルリセッションとなります。
ISM製造業景気指数
2022年7月現時点は50よりも上ですが、この4か月で3回が予想よりも低い結果が出ており、景気は下を向きつつあることを示唆しています。
アメリカ消費者信頼感指数
消費者マインドが低下してきていることが分かります。
アメリカ消費者物価指数
インフレが加速しており、これが消費者マインドを著しく損ねている状態です。
アメリカ長短金利差
債券利回りが逆イールド状態になると、リセッションの兆候であると言われています。
短期よりも長期の方がリスクプレミアムが付くため、通常は長期の方が金利が高い状態となります。
2年と10年金利の差が2022年に入り、4月、7月にマイナスとなり、逆イールド状態が出現しました。
アメリカ雇用統計と失業率
2022年7月時点では、強い労働市場となっています。
以上のことから、リセッションになる兆候はありますが、労働市場は強い為、リセッションにならないかも?と言われてもいます。ただ備えは必要だと思いますので、リセッションに強いセクターは何なのか?を過去2回分のリセッションから調査しました。
リセッションに強いセクター探索
SPDRシリーズで有名なステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)が作ったセクターETFから分析しました。
ETF一覧
名称 | ティッカー | インデックス名 | 開始日 |
エネルギー・セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLE | Energy Select Sector Index | 1998年12月16日 |
テクノロジー・セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLK | Technology Select Sector Index | 1998年12月16日 |
ヘルスケア・セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLV | Health Care Select Sector Index | 1998年12月16日 |
一般消費財セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLY | Consumer Discretionary Select Sector Index | 1998年12月16日 |
公益事業セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLU | Utilities Select Sector Index | 1998年12月16日 |
生活必需品セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLP | Consumer Staples Select Sector Index | 1998年12月16日 |
素材セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLB | Materials Select Sector Index | 1998年12月16日 |
資本財セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLI | Industrial Select Sector Index | 1998年12月16日 |
金融セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLF | Financial Select Sector Index | 1998年12月16日 |
不動産セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLRE | Real Estate Select Sector Index | 2015年10月7日 |
コミュニケーション・サービス・セレクト・セクター SPDR® ファンド | XLC | Communication Services Select Sector Index | 2018年6月18日 |
不動産ETF、コミュニケーションサービスETFは、設定日が2015年以降であり、
今回調査をした2001年、2007年時のリセッションには無いETFであるため、調査からは省いています。
2001年3月リセッション
S&P500ETF SPYと各ETFの比較
・SPYは2000年3月。リセッションから12か月前がピークでした。
・先行指数は素材株であり、最も早くピークを迎えました。
・テクノロジー、ヘルスケア、一般消費財は、SPYとほぼ同タイミングでした。
・公共事業、生活必需品、資本財、金融は遅れてピークを迎えています。
・SPYは2002年10月にボトムを迎えました。ピークから31か月目でした。
・ヘルスケア、一般消費財が最も早くボトムを迎え回復に向かいました。
・生活必需品が最も遅くボトムを迎えました。
騰落率推移
1年前の1999年3月をスタート(0%)とし、そこからの騰落率を測定しました。

→ドットコムバブルと呼ばれるように、テクノロジー新興企業が暴騰暴落しました。
・XLP(生活必需品)、XLF(金融)はスタートからマイナスが続きました。
ピーク/ボトム下落率比較
・SPYピーク:2000年3月、ボトム:2002年10月
→リセッション期間中(下図の青グラフ)
・リセッション前後の各セクターピークとボトムの比(下図のオレンジ)
・下落率はXLK(テクノロジー)が最も悪い結果でした。
・下落率が「マシ」なものはXLV(ヘルスケア)、XLY(一般消費財)、
XLP(生活必需品)でした。
2007年12月リセッション
S&P500ETF SPYと各ETFの比較
・SPYは2007年10月。リセッションから2か月前がピークでした。
・先行指数は金融株であり、最も早くピークを迎えました。
その後一般消費財と続いています。
・テクノロジー、ヘルスケア、公共事業、資本財は、SPYとほぼ同タイミングでした。
・エネルギー、素材、生活必需品は遅れてピークを迎えています。
・テクノロジーが最も早くボトムを迎えました。
しかしながら、ピーク自体が前回リセッションのピークを超えていない状態でした。
・他の指数はすべてSPYと同じタイミングでボトムを迎えました。
騰落率推移
1年前の2006年10月をスタート(0%)とし、そこからの騰落率を測定しました。

そして2008年9月にリーマンブラザーズの破綻=リーマンショックとなりました。
・XLE(エネルギー)、XLB(素材)がピーク上昇率が高い結果でした。
・XLP(生活必需品)が最も下落率が低い結果でした。
ピーク/ボトム下落率比較
・SPYピーク:2007年10月、ボトム:2009年3月
→リセッション期間中(下図の青グラフ)
・リセッション前後の各セクターピークとボトムの比(下図のオレンジ)
・XLF(金融)が最も悪い結果でした。
・XLV(ヘルスケア)、XLU(公共事業)、XLP(生活必需品)が「マシ」な結果でした
ボトムから直近ピークを超えた期間
ピーク時株価を回復する期間を測定しました。(ボトムからの期日)
・2001年:XLK(テクノロジー)
・2007年:XLF(金融)
は、回復までの期間がそれぞれ184か月、129か月とかなり多くの期間が必要となりました。
2つのリセッション時に28か月で回復しました。
セクターまとめ
●下落率が高いセクターは回復しにくい
●エネルギーが他セクターと比べて最もピークを付けるのが遅い
※一番遅効性があるセクター
●回復に要する期間が短いセクター:一般消費財
2022年7月現在の状況
2022年7月8日終了時点の株価を基に算出しました。
・ピーク先行指数はXLC(コミュニケーションサービス)の2021年9月。
・XLV(ヘルスケア)、XLU(公共事業)、XLP(生活必需品)がピークを付けたのが
2022年4月と遅く、下落率が最も低い。
ヘルスケア、生活必需品がやはり堅い
・XLE(エネルギー)がピークを付けるのが最も遅い
・下落率が高い:XLY(一般消費財)、XLC(コミュニケーションサービス)、
XLK(テクノロジー)
リセッション時に強いセクターの主要銘柄
これまでの2回の結果から現在の状況は似ている部分が多いことが分かります。
下落率が低く、堅調なヘルスケアと生活必需品セクターETF中の主要銘柄を調査しました。
また、過去2回のリセッションにおいて回復までの期間が最も早いものが一般消費財セクターであったため、現在の下落率は高いですが、追加で調査しています。
XLV(ヘルスケア)主要銘柄
銘柄名 | Ticker | 組入比率 |
ユナイテッドヘルス | UNH | 9.86 |
ジョンソンエンドジョンソン | JNJ | 9.51 |
ファイザー | PFE | 6.04 |
アッヴィ | ABBV | 5.47 |
イーライリリー | LLY | 5.28 |
メルク | MRK | 4.75 |
サーモフィッシャー | TMO | 4.39 |
アボットラボラトリーズ | ABT | 3.88 |
ダナハー | DHR | 3.46 |
ブリストルマイヤーズ | BMY | 3.25 |
上位10銘柄で55.89%、上位5銘柄で36.16%となっています。
世界的にも超大手企業がずらりと並んでいます。
2022/7/8までの成績
会社名 | ティッカー | 3か月 | 6か月 | 1年 | 年初来 |
ユナイテッドヘルス | UNH | -2.47% | 5.91% | 26.51% | 3.28% |
ジョンソンエンドジョンソン | JNJ | -2.17% | 3.52% | 5.44% | 4.21% |
ファイザー | PFE | 0.57% | -4.42% | 35.46% | -9.96% |
アッヴィ | ABBV | -9.51% | 12.50% | 31.37% | 12.89% |
イーライリリー | LLY | 8.05% | 26.79% | 39.37% | 19.64% |
メルク | MRK | 9.19% | 17.62% | 18.77% | 21.06% |
サーモフィッシャー | TMO | -5.74% | -10.48% | 6.77% | -17.01% |
アボットラボラトリーズ | ABT | -8.90% | -19.16% | -8.39% | -22.37% |
ダナハー | DHR | -8.84% | -13.61% | -4.77% | -19.83% |
ブリストルマイヤーズ | BMY | 0.05% | 21.27% | 13.03% | 20.90% |
特にイーライリリー、メルクが好調です。
またTOP10位の中では下位ですが、ブリストルマイヤーズも非常に強い結果です。
S&P500が低迷している中、これだけプラスだと心強いです
XLP(生活必需品)主要銘柄
銘柄名 | Ticker | 組入比率 | 業種 |
P&G | PG | 15.41 | 家庭用品 |
コカ・コーラ | KO | 10.91 | 飲料 |
ペプシコ | PEP | 10.52 | 飲料 |
コストコ | COST | 9.84 | 食品・生活必需品小売 |
ウォルマート | WMT | 4.54 | 食品・生活必需品小売 |
モンデリーズ | MDLZ | 4.40 | 食品 |
フィリップモリス | PM | 4.04 | タバコ |
アルトリア | MO | 3.83 | タバコ |
コルゲートパルモリーブ | CL | 3.34 | 家庭用品 |
エスティローダ | EL | 2.97 | パーソナル用品 |
日本でもお馴染みの銘柄が数多く並んでいます。
上位10銘柄で69.81%、上位5銘柄で51.23%と偏りが大きいことが分かります。
2022/7/8までの成績
会社名 | ティッカー | 3か月 | 6か月 | 1年 | 年初来 |
P&G | PG | -7.53% | -11.69% | 5.87% | -11.35% |
コカ・コーラ | KO | 0.06% | 3.87% | 16.65% | 6.64% |
ペプシコ | PEP | -0.30% | -1.12% | 14.69% | -1.05% |
コストコ | COST | -14.24% | -8.80% | 23.18% | –11.65% |
ウォルマート | WMT | -19.09% | -12.87% | -10.17% | -13.33% |
モンデリーズ | MDLZ | -1.22% | -7.37% | -0.81% | -5.84% |
フィリップモリス | PM | -5.18% | -2.15% | -4.55% | -1.17% |
アルトリア | MO | -22.87% | -14.64% | -10.58% | -12.39% |
コルゲートパルモリーブ | CL | -0.58% | -8.06% | -4.85% | -8.19% |
エスティローダ | EL | -5.01% | -29.38% | -19.80% | -32.07% |
コカ・コーラが全区間でプラスと健闘していることが分かります。
XLY(一般消費財)主要銘柄
銘柄名 | Ticker | 組入比率 | 業種 |
アマゾン | AMZN | 23.23 | インターネット販売・通信販売 |
テスラ | TSLA | 18.81 | 自動車 |
ホームデポ | HD | 8.82 | 専門小売り |
マクドナルド | MCD | 4.38 | ホテル・レストラン・レジャー |
ナイキ | NKE | 4.19 | 繊維・アパレル・贅沢品 |
ロウズカンパニー | LOW | 3.68 | 専門小売り |
スターバックス | SBUX | 2.78 | ホテル・レストラン・レジャー |
ブッキングホールディングス | BKNG | 2.20 | ホテル・レストラン・レジャー |
TJX | TJX | 2.12 | 専門小売り |
ターゲット | TGT | 2.10 | 複合小売り |
日本でもお馴染みの銘柄が数多く並んでいます。
上位10銘柄で72.30%、上位5銘柄で59.42%とこちらも偏りが大きくなっています。
アマゾンとテスラがずば抜けており、グロース要素が高い為、今回の暴落相場で大きく下がっています。
2022/7/8までの成績
会社 | ティッカー | 3か月 | 6か月 | 1年 | 年初来 |
アマゾン | AMZN | -27.22% | -29.70% | -38.07% | -30.70% |
テスラ | TSLA | -28.06% | -30.86% | 15.24% | -28.81% |
ホームデポ | HD | -4.04% | -29.66% | -10.07% | -30.97% |
マクドナルド | MCD | 0.71% | -5.22% | 8.76% | -5.53% |
ナイキ | NKE | -15.92% | -33.48% | -32.81% | -35.24% |
ロウズカンパニー | LOW | -9.48% | -28.70% | -5.79% | -29.73% |
スターバックス | SBUX | -4.89% | -28.21% | -31.65% | -32.22% |
ブッキングホールディングス | BKNG | -20.37% | -26.68% | -18.23% | -26.25% |
TJX | TJX | -2.63% | -21.56% | -11.86% | -22.37% |
ターゲット | TGT | -31.47% | -35.34% | -40.47% | -36.06% |
その中でマクドナルドは生活必需品に近い側面もあり、比較的健闘していることが分かります。
まとめ
第二次世界大戦以降のアメリカにおいてのリセッションはコロナショックを除いて10回ありました。
その中で過去10回ともリセッション判定の1年前以内には株価ピークを迎えています。
ピークを上回るのはボトムを付けてから最大で約6年かかったこともあり、ピークからの下落幅が大きいものほど回復するまでの期間が長いことが確認できました。
●下落幅が小さいセクター
ヘルスケア、生活必需品
●ピークを回復するまでの期間が短いセクター
一般消費財
が直近2回のリセッションから確認できました。
2022年7月現在の状況は、ヘルスケア、生活必需品、公共事業の下落率が低いことから、過去と類推できる内容となっています。実際にヘルスケアの大手株は2022年もプラスになっているところも多く、底堅い結果が得られています。
現在の状況下では、バリュー株の中でもヘルスケア、一般消費財セクターが良さそうです。
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